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月夜


満月ですね、そう書かれた置き手紙の上に重りのように乗せられていたのは結婚指輪だった。
左手の薬指につけられた自分のものよりも少し小ぶりで、それでいてそこに嵌められた宝石が美しく輝く。
置き手紙と指輪を手に取り、窓際へと移動する。見上げれば、そこには確かに満月が浮かんでいて、なんとなく指輪を持ち上げて、その穴から覗くようにして見てみた。
月は相も変わらず美しいのに、満月ですね、の意図がわからなかった。指輪はどう見たって別れを告げているのに、そこに添えられた言葉を都合よく解釈してしまう。
たとえば、愛に満たされていました、とか。あなたがいたから輝けました、とか。
良いように、都合よく解釈をしてしまえるのに、君はもう帰っては来ないから。
本当に満月のように満たされていたのなら、こんなことにはならなかっただろうに、月夜にそんなことを思いながら静かな部屋の中でため息をついた。

3/7/2023, 1:47:37 PM