『手を繋いで』
僕の恋した君は、クラスの人気者だった。
くりっとした大きな目。
ほわほわとした猫っ毛の茶髪。
笑った時にできるえくぼとキュッと細まる目。
色素の薄い瞳と血色の良い唇が映える白く柔らかな肌。
少し筋肉質でもちっとした足と腕。
背は小さく小動物を思わせる。
そんな彼女が僕は好きだった。
きっかけは些細なことで、図書館で同じ本を取ろうとして触れた指先が僕の心を奪った。
ほんのりと温かい彼女の体温が忘れられない。
その指先の触れるどれもに僕は嫉妬してしまう。
もう一度その手に触れたい。
僕のその欲求は日に日に増え、毎晩彼女を思って眠りにつく。
好きだ。かわいい。会いたい。触れたい。
僕だけのものにしたい。独り占めしたい。
誰に触れさせたくない。
ある日の放課後。
帰り道に彼女の後ろ姿を見つけた。咄嗟に電柱の影に隠れて彼女を観察する。
楽しそうに男と話す彼女。
僕の愛するその指先は知らない男と繋がれていた。
僕は腹の奥からドス黒い何かを感じた。
ドロっとしてて息苦しいそれは次第に嫉妬から怒りに変わり、憎悪や嫌悪となった。
許せなかった。
彼女の手が僕以外の誰かと繋がれているという事実に耐えられなかった。
僕は彼女が男と別れるまで背中を追った。
1人になったところで声をかけると彼女が微笑む。
“どうしたの?”
彼女のその声は音になることは無かった。
彼女の首をグッと締める。僕の手に彼女の手が触れる。
あぁ、君の手が僕に触れている。僕の手首を握っている。愛おしいなぁ。
だんだんと弱まる手の力さえも愛らしくて、僕はそっと僕の両手と彼女の両手を絡ませた。
そのまま彼女と手を繋いで家に帰る。
腕から滴る液体は僕の胸から溢れたドス黒い何かのように思えた。ぽたぽたと垂れる度にその何かが消えていくように感じた。
夜が明けるまで君と手を繋いで、幸せを噛み締めた。
2025.03.20
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3/20/2025, 12:27:59 PM