るな鳥23

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「ねぇ卒業して働くようになったらさ、2人で暮らさない?」

誓い合った中学3年生の冬。よく帰り道に働くようになったらやりたいことなんかを話し合っていた。2人は最強だと、繋いだ手を振りあげて遊びながら帰った帰り道の中には夢がったと思う。大人になれば煩わしい親から解放され、自分の好きなようにできる。自由だと。

「離れていても友達だからね。約束だよ?」

小指を交わした高校3年生の冬。お互い大学に進み、地元を離れるため離れ離れになってしまうのは確実だった。あなたの柔らかい指を私の指と絡めあっては、「寂しいね。」「お互い連絡しようね。」と泣いた。あの時の帰り道には先の見えない漠然とした不安が立ちはばかっていたような感覚に襲われ、どうしようもなく帰りたくないとわがままを言って一緒に遊び歩いた。

『私ね、このままこっちで働くことになったよ。』

送られてきたのは大学4年生の春。貴方が入学した学校は遠方だったから、会いに行くのも大変でたまに近況報告がてら連絡を取り合うくらいしかチャットをしなかった。だというのに、その場所で働いたら会いに行けないじゃない。唇をかみしめて滲んだ血が煩わしい。貴方と開いた物理的な距離に私はアパートのワンルームがまるで牢獄のような無機質な冷たさを主張している感覚に襲われた。


『出張でね、近くに来たから会えないかな?』

そう送られてきたのは社会人2年目の春。
貴方と会えるそれだけで嬉しすぎて自室で小躍りしてしまい、振り上げた腕が壁にあたり隣人から怒られてしまった。しかし今の私は最強なのだ。快晴な青空と満開に咲く桜並木を私はスキップで駆け抜ける。空が、桜が、全てが私たちを祝福している。やはり2人は最強だと主張しているような暖かな風に
抱かれ、待ち合わせのカフェについた。

そこには知らない人がいた。
高校の時とは違う服の系統で、違う系統の髪型で、しっかりと決められたメイクは、アイラインは貴方の美しい目元を際立たせていた。私の知っている貴方は動きやすいラフな服装で、雑に括られたポニーテルで、メイクなんて時間の無駄だよねと笑いあったのをよく覚えている。対して私はどうだろうか?高校の時から変わらないラフな服装で、楽だからと短く切り添えた髪型で、ほぼしていないも同然のメイク。

「あはは、変わらないね。なんだ安心しちゃった。」

そう言って笑う彼女の顔には心から嬉しそうな微笑みがあった。

「もし良かったらこの後遊ばない?昔みたいにさ。」

その瞬間、私の中張りつめていた糸がぶちっと嫌な音を立ててちぎれる音がした。

「そう言って、私の事笑ってるんでしょう?」

そんなこと貴方が思ってないことなんて分かっている。でも口からは滝のように出てくるのは卑屈で惨めな言葉だった。

「すごく変わったよね、可愛くなったよね。まるで満開の桜のようでクラクラしちゃう。でも私はずっと昔のままでさ、どうせ見下してるんでしょう?まだ垢抜けてない芋女かよって。」

言葉を吐き捨てたと同時に代金を机に叩きつけて逃げるようにカフェを出る。全てが恨めしい。昔と同じだと昔に閉じこもっていた自分にも、あんなに変わっていたことを教えてくれない貴方にも。前者はともかく後者は完全な責任転換だということもわかっているがそう思っていないと切れてはいけない糸まで切れてしまいそうで怖かった。

あれから気付けばマンションの自分の部屋にいた。スマホはあなたからの通知で溢れかえっており、どれも私を心配するような内容だったり、謝罪だったり、今度服を一緒に買いに行こうと誘ってくれているような内容だったり……。どうか、もうやめて欲しいあなたに優しくされると自分の惨めさを直接見なければならない。そんなの耐えられない。けれど、あなたとの関わりが切れるのも怖い自分もいるせいでどちらにも踏み切れない。だから心の中でずっと願っている。もう、やさしくしないでと。










【お題:やさしくしないで】

2/3/2025, 4:42:34 PM