川柳えむ

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「あなたとの婚約は破棄させてもらう!」

 国主催のパーティーで、王太子殿下の婚約者であったはずの私は、突然婚約破棄を突き付けられた。
 その瞬間、脳裏に蘇った記憶。それは、前世のものだった。

 トラックに跳ねられて、私は死んだはずだった。その瞬間はしっかりと脳裏に焼き付いている。その次の記憶は、この世界に繋がっていた。
 乙女ゲームの悪役令嬢に転生した主人公が婚約破棄を告げられ断罪される、よくあるラノベで見た展開。そしてまさしく、この世界は、一般人だった前世の私がプレイしていた乙女ゲームそのものだと気付いた。
 トラックに轢かれて死んだ私は、悪役令嬢ものラノベの主人公よろしく、乙女ゲームの悪役令嬢になっていたのだ!

(あっ! これ乙ゲーでやったところだ!)

 殿下が何か婚約破棄の理由をべらべらと喋っているが全く頭に入ってこない。
 それよりも、この状況にひたすらに驚いている。
 だって――前世が存在する? つまりは、霊魂という概念は本当に存在している!? 記憶は、脳ではなく霊魂と結び付いている?

 前世の私はゴリゴリの理系だった。
 全ての事象は科学で明らかにできると思っていたし、幽霊なんてものは見た人の思い込み、頭の誤作動だと思っていた。人間も機械と同じく、ただの電気信号で動いている。だから、壊れてしまえば、死ねばそこで終わり。霊魂なんて存在しないし、前世なんて以ての外。あるわけがない。

 そう思っていたのに。まさか、それが自分の身に起きるなんて。
 これも私自身の思い込みなのかもしれない。でも、殿下は記憶通りの行動をしているし、今まさに記憶通りの出来事が起ころうとしている。
 それすらも偶然と言ってしまえばそうなのかもしれない。しかし、俄然気になってきた。

 この世界には、元の世界と違って、魔法が存在する。
 もしかしたら、これは霊魂の存在を解明する何か糸口になるかもしれない。

 そう思ったら、こんなところでグズグズしている暇はない。婚約破棄なんてどうでもいい!
 さっさと受け入れると、急いで帰宅し、研究を始めた。魔法を勉強し、各地にいるという精霊に出会い、話を聞き――……。

 そして、私は霊魂の存在の証明し、また、科学と魔法を掛け合わせたものを発展させ、その道の第一人者として名を馳せた。
 めでたしめでたし。


『脳裏』

11/9/2023, 11:00:55 PM