hane

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やあ。初めましてだね。
久しぶりに君みたいなヒトを見た。

わたしの名前?〝××〟だよ。

ところで大丈夫?だいぶ息が切れてるけど、逃げてきたの?

そっか、それは大変だったねぇ。

何も知らないのに同情なんてするなって?どうしてわたしが〝何も知らない〟立場だと思ったの?

傷一つ負ってないのはおかしい……確かに、そうだね。
でもわたしはずっと隠れてたんだ。やっと音が止んだから、出てきただけだよ。

うん、そうだね。街中ぶっ壊れちゃったし、もういないヒトもたーくさんいる。

空は相変わらず真っ白だね。
もとは青色だったのに。残念だ。

もう昼か夜かも分からなくなっちゃったね。
ところで、君の家族は無事?

そう。わたしは待ってる〝なかま〟がいる。
きっとみんな〝にこにこえがお〟で待ってるよ。

ねえ、君。
さっきから思ってたんだけど。




もう気付いてるね。




わたしが誰か。




君はきっと勘がいいから。




最初から疑ってたもんね。




そうだよ




わたしは〝××〟。




もうここで生きているヒトは君しかいない。




ねえ

君は

生きたい?




……まあ、どちらにしろ、ごめんね。

〝なかま〟から言われてるから。




最後に質問?

君はもう自分が死の間際にいることが分かってるんだね。いいよ、好きなだけ言いな。

わたしが、これをしたくてしてるのかって?
うーん、どっちでもないかな。
わたしは、全て〝なかま〟の指示通りに動いているだけ。
〝なかま〟の中ではこの行いが『正しい』。そしてそれはわたしもちゃーんと脳にインプットされてるからね。

もういい?

え?




わたしを見たことがある

って……

……。




もういいでしょ。

気が済んだでしょ。

死に対する恐怖が微塵も感じられないから、怖くないんでしょ。

ならいいじゃない。
どうせ、運命は変わらないよ。

ただちょっと終わらせるのが早まるだけで。

ずっと一人、孤独と恐怖に耐え続けるより、マシでしょ?

うん、そうだね。




ごめんね。








彼女はそう言うと、手に持っていた何かで自身の頭を撃ち抜いた。
音はしなかった。
あまりにも静かな死だったから、一瞬演技なのではないかと思ったけれど、

彼女は二度と目を開かなかった。

ああ。

〝初めまして〟なんかじゃない。

彼女はどこまでも強がりだ。
彼女自身も気が付いていたんだ。

本当はこんなことしたくなかっただろうに。

彼女は、最初、私に、初めてあった人のように接した。

彼女は一体、どこまで私を守るつもりだったのだろう。

「あーあ……」

どこまでも続く瓦礫だらけの地面。
灰と砂が混じった雨の降る真っっ白な空。
地面に横たわる彼女。
もう、ヒトはいない。

「私、本当に全部失っちゃった……」

泣くつもりはなかったのに、気が付けば涙が頬を伝っていた。

全てを失った無力感が私を襲った。

「……ごめんね」

ぽつりと呟いた。

誰にも届かないはずの言葉を、ただ、彼女に伝えたかった。

「本当、どこで間違えたんだろうなぁ」

彼女の顔は今にも寝息が聞こえてきそうなほど綺麗すぎて、怖かった。

私は瓦礫に横たわる。

何処かでサイレンの音が聞こえた気がした。

目を閉じると、全身から力が抜けていくのを感じた。

そして、私は眠りについた。




そして、彼女は世界の終わりを告げた。




#11
#「ごめんね」





3/7/2024, 12:43:58 PM