織川ゑトウ

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『聲、こえ、声』

放課後

「明日、世界が滅亡したら君はどうする?」

隣の席の池田くんが話しかけてきた。

「別にどうもしないよ。逆に池田くんはどうするの?」

伏し目がちに頬を染めながら池田くんはこう答えた。

「僕は…君に告白するかな」

そう言うと思った。

「じゃあ、ありがたく僕は告白を拒否するね」

少し驚いた顔をして微笑んで

「うん。じゃあまた明日」

と池田くんは帰って行った。


「ねぇ、池田くん。僕の選択は間違ってなかったよね」

池田くんのお墓の前でまたこの会話をスマホから流す。

あの事を話した次の日、池田くんは飛び降り自殺をした。
帰っていったと思った1時間後、屋上からばびゅーんと。

屋上に残っていたのはロックのかかっていないクリアケースを付けたスマホ。
スマホの中身は設定、LINE、写真、ボイスメモだけ。
勝手に見るのも悪いかなーと思ったけど、まぁ何も起こらないだろうし、と思ってなんとなくボイスメモを開いた。

3秒の悲鳴と、放課後の会話。
悲鳴は、女子生徒のだろうか。なぜ悲鳴が入っているのかは分からない。放課後の会話は、思い出としてでも残しておいたのだろうか。

あの後まだ地面に崩れている池田くんに向かって僕はあの会話を流した。池田くんの耳からは血が出ていたから聞こえていないかったかもしれないけれど。
池田くんが死んだ翌日、教室では特に代わり映えのない会話が流れていた。

昨日のテレビだとか、好きな俳優だとか、推しのイベントだとか。

池田くんが死んだとか。

やっぱり人間って薄情なんだね。君が死んでもこの世は何も変わってないよ。

でも、池田くんの事が好きだった僕にとっては世界は滅んだと同然だ。

「告白を受けなかったのは何故?」

好きだからって告白を受ける理由にはならないよ。
付き合うのってめんどうじゃん。
僕、好きな物には手を出したくないタイプなんだ。

月は手が届かないから美しいんでしょ?
届いたらどうせ「こんなもんか」とか言うんでしょ?

8割がたの人間はそういう文句ばっか言う。
貴方が望んだことなのに。

「ねぇ、池田くん。告白を受けなかったのは謝るけど、死んだ池田くんのことを忘れてるやつらより、毎年お墓に来てる僕の方が薄情じゃないよね」

蛙化現象とか言って自分に酔ってる人間より
明日には昨日の食べたご飯を忘れてる人間より
池田くんを殺した犯人の池田くんという人間より

「やっぱり僕は薄情者だ」

現代、変わる世界。
過去、忘れる世界。
未来、望んだ世界。

そろそろ貴方も自分の声を持ったらどうですか。

現代に揺り動かされて、他の人の声ばっかりに耳向けて。

池田くんみたいにならないで下さい。

自分の声をもったら現代に批判された若人Yより。
薄情者らしいYより。



お題『声が聞こえる』

※実際の人物とは何の関係もありません。

少しだけ解説。
この作品は意志を持たないと"言われている"若者に焦点を当てた作品です。
他の人の声ばかり聞き、肝心な自分の声は聞こうとしない。便乗しかしない。そんな人に向けた。

しかし、主人公もその若者のうちの1人です。
自分は周りとは違うから。そうやって自分しか見ない。自己中心的な人物。そして、手が届くものに対して、手を伸ばそうとしない消極的な人物。
これもまた、現代社会の若者の特徴と"言われている"ものです。

意志を持たず、消極的で、批判的で。

でも、そうさせたのは現代社会で。

貴方の声が、潰れないよう、どうか池田くんみたいにならないよう。

私はこの作品を残します。

9/22/2024, 1:35:15 PM