あなたはいつも鏡の中の私に話しかける。
笑いながら、怒りながら、ときには泣きながら。
幸せそうな話を、くだらない日常を。
両親の話を、友だちの話を、恋人の話を。
私はいつもその話を聞きながら共感し―――そして妬まずにいられなかった。
だって私はあなたの影法師。
あなたが鏡の前に立たなければ存在しない。
嬉しいも、悲しいも私は知らない。
それなのにあなたは恋人の愛しさを私に語る。
「鏡の向こうにはどんな世界があるんだろう?」
だからあなたがふと漏らした、鏡の中の【自分】への現実逃避が私を招いた。
『ソレナラカワッテミル…?』
鏡の中の自分を覗く。
そこにはいつもと変わらない私がいる。
いつもと同じ髪型で、いつもと同じ化粧をして、お気に入りの洋服とアクセサリーを身にまとう。
恋人との待ち合わせに合わせたアラームが鳴って、慌てて部屋を飛び出す直前に、もう一度鏡を見る。
そこにいるのはもちろん【私】。
けれど鏡の中の影法師は…もう私じゃないわ。
【鏡の中の自分】
11/4/2023, 7:00:52 AM