NoName

Open App

自分の本心が分からなくなってきた、そんな寂しいことがありました。
表面的な付き合いしかしていなかったから……。

水晶玉で視ているフリをして、ち、人生相談かよと僕は内心思った。


雑多な喧騒が耳に入る市場通りで目の前の女性が縮こまりながらポツポツと語りだすのを神妙な顔して聴いていた。
「植物の研究をしているんです。王宮のガラス張りの温室に必要な材料をとりにいったら、わ、私の好きな人が、同僚なのですが、私のことを話していて、く、暗いとか、冴えないとか言ってて」
「そうなんだ」
「その時、鏡を布で磨き上げていたような好きな人の姿がガシャガシャと崩れました」
「へー」
「占い師さん、どうしたらいいのですか」
「へ!?」

こほん。

話の内容が大体掴めたので、うんうんと頷きながら僕は
「それはお辛いと思いますが、思いが深くなる前に気づけてよかったじゃないでしょうか」

「そうですか、私は今後も人を好きになることができるでしょうか」
眉を寄せながら、唇をわななかせた女性に特効薬をたった一つだけ、
「視えます、視えます。あなたが微笑んで、隣りにいる方が優しくあなたを包みこんでいるような寄り添いあっている姿です」
「え!」

もう輝き出した女性の表情に僕はホッとした。
占いは嘘も方便、人を助けるために使えと言っていた師匠の顔を思い浮かべながら、
これでいいんですかね?
と内心つぶやいた。

4/3/2024, 10:55:13 PM