白玖

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[刹那]

1日目
「お兄さん、ごめんね。助かったよ、ありがとー」
「どうして無銭飲食なんか…」
「いやぁ手持ちでギリギリ足りる筈だったんだけど、税の分忘れてて……あ、ははは……ほんっとうにありがとうございました!!」
「はぁっ。もしかしなくても家出……」
「ご、ご推察の通りです」
「お金ないんでしょ、泊まるところあるの?」
「ざ、残念ながら…」
「…………はぁぁぁー。うちで良かったら一晩泊まる?」
「えっ! い、いいの!?」
「その代わり今日泊めたら家に帰んなよ、分かった?」
「うんっ!! 何から何までありがとうね、お兄さん」

「へぇ、お兄さんの部屋結構シンプルなんだね。お邪魔します」
「男の一人暮らしなんてこんなもんだよ」
「そうなの?」

「うっそ!? お兄さん弁護士なの?」
「一応ね」
「いやいや謙遜しなくていいって! 凄いね! 格好いい〜」

「あー、やっぱり弁護士さんって大変なんだね。いつもお疲れ様、おにーさん」
「……何、してるの?」
「んー、頭なでなで〜ってしてる。大変だね、凄いよお兄さんは」

3日目
「……なんでまた君がいるのかな」
「あ、ははは……。昨日ちゃんと帰ったんだけどね、また出てきちゃった」

「おいで」
「ん? なにー? って、それ濡れタオル……?」
「頬の跡隠してるつもりなんだろうけど隠せてないから。ほら」
「もう、お兄さんは察し良すぎだよ」
「……俺のせいだろ、その跡」
「違うよ、お兄さんのせいじゃないよ」
「俺の言う事聞いて家帰ったから殴られたって言えばいいのに」
「そういうの人のせいにするのダサいじゃん、やだよ」

10日目
「ねぇ、お兄さん! これどう? …って、なんで見ないのー?」
「別になんでも良いだろ服なんて」
「良くないですーっ! ねぇ、可愛い?」
「可愛い可愛い」
「じゃあこれも買おー!」

17日目
「お兄さん、お兄さん」
「何か?」
「本ばっか読まないで構ってよー」
「はいは――…うわっ、急に割り込むな――」
「んーちゅっ。……大好きだよ、お兄さん」


20日目
帰宅後、部屋に入ると全てが違っていた。
いや、元に戻ってたというのが正しいのか。
全ては20日前の、彼女を拾う前の部屋にすっかり元通りになっていた。
一緒に選んだ小物や服や彼女と出会ってから増えていったもの全てが突然なくなった。
全てが無くなった代わりに増えたのはテーブルの上にある一通の封筒。
幾ばくかのお金だけが入った真っ白い、無地の。
彼女が消えたことも彼女がいたことも俺が見た幻だったのかと錯覚しそうになる。確かに彼女はここにいたはずなのに、彼女がいた証は封筒以外のどこにもない。
あまりに刹那的に過ぎ去った彼女との日々。

「なぁ。俺も好きだって、伝えていたら……」
そうしたら君は今も、俺の隣に居てくれたんだろうか。

4/28/2023, 11:36:39 AM