無有

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『突然の別れ』

「別れ」とは何度経験しても慣れない。

進学先の違いという別れ。引越しという別れ。

これらの「別れ」は、今後、絶対に会えなくなるというわけでは無い。連絡を取ろうと思えば、スマホを片手にすぐにメッセージを送ることが出来る。

別れの瞬間は、寂しさに支配されてしまうが、それでも、一生会えないということでは無いと信じているから、寂しさは緩和される。それどころか、どこか暖かさに包まれているような感覚さえする。

しかし、今生の別れ。

この別れは、1番嫌いだ。
あの時の景色を、感情を、僕は決して忘れないだろう。

夜。電話が来たと、スマホから着信音が流れる。電話に出ると、残酷な言葉が伝えられる。…貴方が亡くなったと。不思議なことに、悲しさよりも驚きが勝った。もしかしたら、現状に理解が追いついていなかったのかもしれない。

けれど、棺で眠る貴方を見た時。貴方は数ヶ月前に会った時と変わらない顔であるにも関わらず、魂だけが、そこに無かった。抜け殻のようだと思った。

葬式は、心ここに在らず、と言ったところだろうか。現実であるはずなのに、どこか夢を見ているような感覚だった。

そしてついに。貴方が霊柩車に乗る前の、最後の別れが来てしまった。ずっと夢を見ていたかのようにぼんやりとしていた頭が、冴え渡る。

もう貴方に会うことはできない。貴方は、もう、優しい眼差しや、体温を、僕に与えてくれることは、この先、1度も無くなってしまうのだと。

急に現実を突きつけられた気がした。電話を受けてからしばらくの時間が経っていたというのに。

悲しみが襲ってくる。涙が溢れてきた。今に至るまで、流れることはなかったのに。


…別れは嫌いだ。

5/19/2024, 1:15:53 PM