その日もキタは夜空を見上げていた。魔法使いの弟子になって、まだ間も無い彼の、将来の夢は「星読み」になること。星が良く見える、この海岸に居を構えている。
「今日は雲が多いなぁ。」
雲が風に乗って、南から北へと流れていく。その流れは速く、高い空には強い風が吹いているようだった。明るい月が出たり隠れたりして、目の前の海が光ったり暗くなったりしている。
「あったかくなってきたな。」
今年も春が近付いてきている。キタは夜空を見上げ、手に持った望遠鏡を覗き込む。
「えっと、今日のスピカは……。」
その時、ザーっと音を立てて強い海風が吹いてきた。
「うわっ!」
バタバタバタと軒先に干したままのウェットスーツが音を立てる。
「あー、びっくりした。」
その時だった。目の前で、何かが、ぽわっと光る。風に乗って、ひとつ、またひとつ。
「カナナシだ!」
カナナシの綿毛のような花が、風に乗って海から流れてくる。それが、雲に見え隠れする月明かりで、キラキラ光って見えた。海藻の一種、カナナシの種は、清涼剤として使われている。もう少し暖かくなったら、海に潜って採取する予定だ。海の傍に家を構えるキタにとっては、貴重な収入源のひとつ。
「綺麗だなぁ。」
キタは星を見るのも忘れて、空高く舞い上がっていくカナナシの花を見送る。ふわふわと風に乗って、花は、遠く遠くへ流れていく。
3/6/2025, 2:12:46 PM