Morris

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雪は雨より生まれ、積り溶けてゆく。

「雪と桜はよく似ていると思わないか」

もう一人の「自分」がこちらに語りかける。
雪は溶ける、桜は散る。短く儚い命の代償にした美しさには古より語り継がれてきた。

「確かに」

私のところはめったに雪が降らない。
雪が一面に広がったときは、勝手に飼い犬と出かけて怒られたんだっけ。
雪は綺麗だけれども、その重み故に我々の命を脅かすこともある。

「ねぇ、お願いがあるんだけど」
「何?」
「春が来たら、そっちの桜を集めてほしいんだ」

何をするのか、少し考えてみる。

「こっちの桜は遅いし、色が濃いんだ。薄いのも欲しくて」
「そっか……わかった、何を作るの?」
「雪を使うとだけ言っておこうか。楽しみにしてて」

心の底から楽しいのだろう。内緒だと言って笑う姿が無邪気で、愛おしく思えてくる。
鏡の向こうに映るノートには、何かがびっしりと書き込まれていた。

「考えるのもまた一興。春になったら答え合わせしようか」




『冬春の美巧』

お題
「雪を待つ」

12/16/2022, 10:29:22 AM