14.花咲いて 兎黒大
春休みの、そろそろ桜も咲きそうなそんな時期に俺と木兎は澤村の新しい根城にお邪魔していた。と言っても澤村が東京の大学に進学したのを機に一人暮らしを始めたと言うだけなのだが。ただ実家勢の俺たちからしたらそれは未知の世界であり、お世辞にも広いとは言い難い部屋にもテンションが上がっていた。
澤村の部屋は越してきたばかりということもありものはそこまで多くなかった。俺たちの今いる居間には真ん中に小さめの机と端に本棚やテレビが置かれているばかりである。そんな部屋で男3人が机を囲んでくつろいでいるので部屋はかなり圧迫されていた。
「それにしても澤村がジョーキョーしてくるなんてな〜。てっきりあっちの大学に行くもんだと思ってた」
「まあ実際最後までどうするか迷ったな」
木兎の言葉に意味もなくついているテレビへ傾いていた意識が引き戻される。
「しかも同じ大学だし!澤村が行く大学の名前聞いた時めっちゃ驚いたもん。」
「それ知った赤葦から澤村に伝言で『木兎さんを頼みます』てのを預かってるぜ」
俺の言ったそれを聞いた木兎は「俺にそんなのひつよーねーよ」とさわぎ、澤村は赤葦の苦労を思い返して苦笑している。澤村は元来世話好きなヤツだからそこまで嫌という訳でもないのだろう。
「木兎の世話をしてやりたいのは山々なんだが俺も東京での生活に慣れないとだからそこまで構ってやれないかもな」
「澤村サンたら子供みたいに目を輝かせちゃって、そんなに新生活、楽しみなんですかー?」
目はテレビの画面に向けながら雑な煽りを入れてみれば、澤村がムッとした表情で言い返してくる。
「この季節の新大学生なんてみんなこんなもんだろ。それとも黒尾サンはこんなことも思えないほど心が荒んじゃってるんですか?」
「いやいやー。澤村サンが浮かれすぎなだけですよ」
意味のない言葉の応酬をしていると、テレビを見ていた木兎がふっと呟いた。
「新大学生って言ったらハナガサクってやつか?」
「それを言うならサクラサクだろ」
「しかもそれ合格の電報のやつだし」
俺たちのツッコミにムスッと不貞腐れた木兎はまたテレビに目を向けた。それに釣られるように俺もテレビの方を向くとタイミングよく綺麗に咲いた花が映されていた。どうやら春の花を特集しているようだ。
「まあけどこの時期の将来への希望だったりなんでも出来そうなそんな気持ちはほんとに花が咲くって感じでいいよな」
俺がテレビを見ながらそう言えば、澤村も木兎も嫌そうな顔をしながら「これだからロマンチストな厨二病は」なんて呟いている。これにはさすがに俺も我慢ならない。
「ロマンチストって、これ言い出したの木兎だろ。てか澤村も似たようなこと言ってたし!」
俺がそう反論すればすかさず澤村が応対してくる。
「木兎は何も理解せず言ってただけだろ。あと内容は似てても俺とお前じゃ表現の仕方が全然違うだろ。それに春なんか花粉が幅きかせてて花が咲くじゃないんだよ」
「いや、それスギ花粉でしょ!花関係ないから!あと田舎出身の澤村サンも花粉症の被害者なんですね!意外です!」
「確かにそれは意外だなー。とーだいもと暗しってやつだな」
「「いや違うだろ!」」
〜~完~〜
7/23/2024, 2:49:14 PM