昨晩から降っていた雪は降りやむことなく、今もなお、道を白くしようとせっせと働いている。ほどなくして、半纏を着た主人が廊下の向こうからやって来る。寒さに耐えきれなかったようで足元はふわふわふかふかのスリッパを履いている。
「おはよう、主人」
首元が寂しい主人にもこもこの白いマフラーを巻いてやると、苦笑した。
主人が生贄としてこの屋敷に来て、早くも八十年が過ぎた。最初は村へ帰れとやりとりしていたころが懐かしい。帰る場所がない、という主人が居座って、最初は警戒していた連中も今ではすっかり仲良くなった。
「あなたも物好きねぇ。もうこんなお婆ちゃんになってしまった私を今でも甲斐甲斐しくお世話するなんて」
「俺の楽しみだからな。それに、言っただろう。幾つになっても愛していると」
「しょうがない神様だこと」
呆れたように、肩を竦めた主人の手を握る。瑞々しく若々しかった肌は年月が経つにつれ、衰え、皮と骨のような手になってしまったことが主人と俺の時間の差をいやがおうにも実感させられる。
「私が死んだら、好きにして良いからね」
「勿論、好きにさせてもらう」
愛しているよ、主人。
だから、きみが死んでもずっと一緒だ。
12/7/2025, 8:11:09 AM