月と紅茶とタイプライター

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『別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。』

 そう言ったのは、誰だったか。それは忘れてしまったけれど、この言葉はなかなかに秀逸だと思う。

 だって実際、私は彼のことを忘れられていないから。

 「桜」なんてベタな花、名前を聞いて蘇ってくる思い出は、彼のものだけではないはずなのに。彼に植え付けられた思い出が、あまりに鮮烈すぎるからだろうか。桜の花を見るたびに、私は彼を思い出す。

 あの日、桜に攫われるようにして、私の元から居なくなってしまった彼のことを。


お題『忘れられない、いつまでも。』

5/10/2026, 10:01:22 AM