《星が溢れる》
幼い頃に見た夜空が忘れられない。
市内に住んでいれば、夜などは街の明かりで
星の輝きはかき消されてしまうし
夜、外出したところで空を見上げることもない。
専ら星を見るといえば、プラネタリウムを鑑賞する
くらいで、星座を教えてもらっても
ピンとこない。
だいだい、「あの星とあの星をつなぐとね?ほら!」と
教えてもらっても
指さした方角の「あれ」が「どれ」なのかさっばり
わからないから、興味の沸きようもない。
夏や冬になると
母の実家に帰省することが多かった。
前方には海、後方には山が連なる田舎町。
夏でも窓を開けていれば涼しい風が入るので
エアコンはなく、蚊取り線香と蚊帳がある部屋に
寝る。
年頃になれば従兄弟が集まり、たまにしか帰省しない
私たちと会えない時間を埋めるように話込む。
夜更かししている、といったいつもとは違う時間の使い方に大人っぽさを感じながら
窓の外を見る。
真っ暗。波の音だけがたぷたぷと聞こえてくる。
明かりといえば
たまに走り去る車のヘッドライト程度。
空を見上げる。
びっしりの星。星と星をつなげて形を作るなんて
何万通りもできそうなほどの星の数。
蠍座?蟹座?
夏の大三角形?
どこにでもできそう。
何時まで起きていたのか、なんてこともわからないし
従兄弟たちとどんな話をしたのかなんて
覚えていない。
覚えているのは
あの家で、2階の窓から眺めた
宝箱から溢れ出たような数の星。
今は、住む人もいなくなってしまったから
その家に入ることは叶わないのだけれど
願わくばもう一度、あの窓から
深夜に空を仰ぎたいと思っている。
3/16/2023, 6:41:18 AM