結城斗永

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「早く夏休み終わらないかな……」
 じいちゃん家の畳間。幼馴染の四人でトランプの最中、僕がそういうと、友達みんなから猛反発を受けた。
「タケル、それマジで言ってる?」「俺はもう一ヶ月くらい欲しい」「ずっと夏休みならいいのに」

 そりゃあ、そうだよな。
 夏休みが終わるまで、あと一週間もある。まだまだ長そうな七日間。
 いつ夏休みが終わってもいいように、宿題は全部終わらせてある。自由研究もやった。

 別に夏が嫌いなわけじゃない。
 夏にしかできない思い出もたくさん作った。海水浴も行ったし、花火大会も行った。盆踊りも、かき氷も、スイカの種飛ばしも。
 今日だって、朝早くに集まって、名古屋から岐阜の山奥くんだりまで、半日かけて自転車を走らせてきた。田舎のじいちゃん家でお泊まり会だなんて、やっぱり夏休みじゃないとできない。

「あっ、お前、ゆみこ先生に会いたいんだろ」
 友達の一人がそう言って、僕は思わず顔を伏せた。
「タケル、先生のこと好きだもんな」
「えっ、そうなの? 知らなかった」
「や、やめろよ……。そんなんじゃないよ」
 僕は自分の耳が熱くなっていくのを感じながら、「風呂入ってこよ」と部屋をあとにした。
 障子戸の向こうから友達のキャッキャと笑う声が聞こえてくる。

 早く終わってほしいような、終わってほしくないような、あと一週間の夏休み。

#終わらない夏

8/17/2025, 12:09:01 PM