はろ

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私は叶わなかった夢の形をしているの、と
昔、母さんがよく言っていた。

クッキーを焼くのが上手いのは、
パティシエになりたくて勉強したからだし、
足がどのお母さんよりも早いのは、
中学の県大会を目指して一生懸命練習したから。
似顔絵を上手に描けるのは、
漫画家になろうと、Gペンと原稿用紙を買ったからだし、
クラシックとヴァイオリン協奏曲に詳しいのは、
コンサートミストレスに憧れて、指がしびれるまでヴァイオリンを弾いたから。

何度も夢を見たけれど、一つも叶わなかった。
才能がなかったから、努力が足りなかったから、
タイミングが合わなかったから、あるいは夢を見失ったから。
けれどその挫折のどの一つが欠けても、今の私にはならなかったわ。
だから私はね、そんなに後悔はないけれど、
でもあなたは、夢を叶えてね。
頭を撫でながら、母さんは何度も言った。
星に祈るように、あるいは、呪いのように。

大人になった私は、夢を叶えた。
特別才能があるわけでも、根気強いわけでもない。
長所も短所もない、平凡そのもの。
そんな私が、特出した何者かになろうとすれば、
何かを捧げなければならない。
まずは、時間。
あるいは夢の外にある楽しみや、興味。
夢の外にある人たちと同じ生活、幸せ。

私は夢に全てを捧げた。
そしてその、光り輝く一つを手にして、気付いたの。
私は叶った夢の形をしている。
夢を叶えるため、それ以外の全てを削ぎ落とし、夢に必要なものだけを詰め込んだ姿をしている。

母さんと同じように、多分そんなに後悔はない。
けれど時々夢見てしまうの、夢の外で生きた自分のこと。
叶わなかった夢の形をしている私のことを、夢見てしまう。

3/18/2025, 2:37:50 AM