君の感情を空に押し付けるなよな。
【物憂げな空】
世界にライバルなんてそう多くない。
たいてい、私が踏みつける凡人か、私を踏みつける天才か。肩を並べてくるやつなんてそう居ない。
そういう中途半端な天才が私で、そう、奴もそうだった。
二人で全国に、なんて陳腐な約束は過去の青写真として、ときの濁流に侵食されつつあったそんな頃。
『期待のルーキー』として奴の名前を聞いた。
テレビで特集が組まれていて、界隈を退いて、腫れ物のように情報を拒絶していた私でも知っているくらいの有名チームへ、新人として入ったらしい。
「昔、約束した奴が居るんです。全国で敵同士で闘おうって。ソイツ私より超上手くて! 学生時代は負けまくったんですけど、見返してやります。このチームで、全国で!」
記憶にないと言われれば、奴を私を踏みつける天才と認識して言い訳ができた。
……それなのに、奴は今でも私を目標にしている。
奴は今でも、学生時代の上手い私と闘っているつもりだ。でも、そんな私はもう居ない。アイツが目指す影はきっと私ではなく、奴の理想だ。学生時代の理想だった私にその役目を押し付けているだけだ。
――安心しろよ。あんなの長くないよ。スポーツでやっていける歳なんてたかが知れてるじゃないか!
「……今何してるんですかね。全国で会うまで連絡は無しなんです。でも、アイツなら必ず上がってきますよ!」
地方の大天才は、もう死んでいる。
学生時代つけた筋肉は、都会の飲み屋でのビール運びによく活きた。毎日毎日これだけ。甲斐甲斐しく過去の努力だけが私に残っている。
……私は今何してるんだろ。
両手に掴んだ瓶ビールをそのままに、せり上がってくる何かを必死に飲み込んだ。
【君は今】2024/02/26
2/26/2024, 11:55:55 AM