詩歌 凪

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 もしも未来を見れるなら

 灰色の空。灰色の街。灰色の世界。
 今日も視界は灰色に染まっている。わたしはやっと手に入れた今日の分のパンを持って、岩陰に戻ってきた。
「起きてる?」
 人が二人入ればいっぱいになってしまう小さな隙間に、少年が寝ている。身体は痩せ細り、生気は薄い。かくいうわたしも似たものだ。わたしが傍に座ると、目を開けて起き上がった。
「おはよう。はい、ご飯」
「……パンじゃん」
 細かい。
 少年は灰色のパンを受け取ると、一口齧った。それを尻目に、わたしも自分の分を食べ始める。
 世界が灰色に染まってから、既に一年が経った。もともと搾取と嘘に塗れてあんまり好きな世界じゃなかったけれど、それでも今よりはずっとマシだったらしい。だからわたしと彼は灰色になった世界を元に戻すために、こうして旅をしている。ろくに食べ物もない中。
 少年は小さなパンを食べ終わると、わたしをじっと見つめ、唇に手を伸ばしてきた。
「……何」
「パン屑ついてる。勿体ない」
 指先のパン屑をぺろっとなめ取る。
「……ありがと」
「今日は、どこまで行く?西?東?」
 少年の問いに、わたしは少し考えた。どこまで行きたいんだろう、わたしは。思考の末に、ぽつっと零した。
「……未来を、見たい」
 こんな右も左も灰色の、絶望だらけの世界じゃなくて。
 どうしてそんなことを言ったのか、わたしにもよく分からないけれど。
「俺も」
 少年は笑って頷いた。だから、今日のところはそれでいいと思った。

4/20/2024, 12:52:54 AM