とある恋人たちの日常。

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 そう言えば……あまり彼女の運転する車に乗ったことはなかったな……。
 
 彼女が会社の人たちと行った場所が楽しかったと言うので、連れて行ってくれることになった。のはいいんだけれど……。
 
「運転、上手くなったんですよー!!」
 
 得意気に話しながらも、ハンドルをキュッと曲げて、普通の車ではしない動きをする。振り回される浮遊感に背筋が凍る。
 
「そそそそそ、そうなんだぁ……」
「あっぶない!」
「うわぁっ!!!」
 
 再び、ありえない曲がり方をした。
 
「こんなの私にかかれば余裕ですよー!!」
 
 今まで見たことの無い笑顔で爛々としていて、さすがに命の危険を感じる。
 
「ちょちょちょちょちょ、待ってまって!! ストップストップ!!」
 
 彼女は首を傾げて、車を橋に停めた。
 
「どうしましたか? 酔いました?」
「酔っては……いないんだけれど……」
 
 俺は視線を泳がせながら思考を走らせるとピンときた。眉間に皺を寄せて、口元に目を寄せる。
 
「あ、ああ、うん。ごめん、酔いそうだから、俺が運転したいかも」
 
 彼女の表情は一気に俺を心配するものに変わる。いや、少しだけ心が痛いけれど命には変えられない。
 
「大丈夫ですか? 飲みもの、後ろから取ってきますね」
 
 彼女は迷わずに運転席から降りて、後ろの座席に移ってクーラーボックスから飲みものを取り出して、そのまま俺に渡してくれる。
 
 もう、こういうところ好きなんだけれど……さっきの運転を思い出して、背中が震えた。
 
「ねえ、会社の人達と出かける時って、運転するの?」
「いえ。だいたい社長が運転してくれますね。お出かけ用の大きい車両もありますので」
「あ、なるほどね……」
 
 いや待て。
 俺が疲れて送り迎えしてくれる時、こんな運転していなかったぞ……。
 そう考えたけれど、あの時は俺を心配したから丁寧に運転していたんだな。本当にそういうところ好き。
 あ、でも過去にバイクで転んだこともあったな。
 
 俺は彼女からペットボトルを受け取りながら、意を決する。
 
「少し休んだら俺、運転するね」
「無理しないでくださいね」
「ありがとう。自分で運転した方が集中して酔わないから大丈夫だよ」
 
 そう言うと安堵した笑みをくれる。心底俺を心配してくれているから本当に申し訳ない。
 
 ごめんね。こういうスリルは遠慮したい。
 
 
 
おわり
 
 
 
一八〇、スリル

11/12/2024, 12:33:24 PM