紅月 琥珀

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 私が生まれた時にはもう既に人類は滅亡寸前だった。
 マッドウイルス、資源の枯渇、パラサイト・エンドロフィリアにアスタレア。
 人類滅亡の原因を挙げるならこれくらいだろう。

 アスタレアは突然飛来してきた宇宙生命であり、この星を自分達の惑星にしたいらしく⋯⋯問答無用で私達を皆殺しにしようとしていた。
 それに抗うために人類は武器を取るも⋯⋯圧倒的な文明力とフィジカルの差に、資源の枯渇も相まって私達はその数を減らし、窮地に追いやられた人類は地下でひっそりと暮らす事を余儀なくされる。
 しかし問題はそれだけではない。件の怪物がこの星(ち)に持ちこんだ未知のウイルスと寄生虫は、彼等と同じくらいに恐ろしく⋯⋯この星の環境と相性が良かった様で、凄まじい勢いで動植物を殺していった。

 そんな私達の生活は、当たり前だが荒んでいた。
 狭い地下街での争いは日常茶飯事。物資の取り合いで殺し合いに発展したり、変な新興宗教を立ち上げて現実逃避したりと⋯⋯毎日様々な事が起こっている。
 人々はアスタレアやマッドウイルス、寄生虫に怯えながら日々を過ごし、この地下世界で自分達の寿命が尽きるのを待つ事しか出来なかった。

 しかし一部例外があった。それが私だ。
 何故かは知らないけど、マッドウイルスの抗体持ちだったらしく⋯⋯現在陽性は出ているものの全く症状が出ていない。
 それどころか変な力を獲得し、それを使ってアスタレアを殺したこともある。
 その力が原因で研究のためと、良く地上へ行かされていたので、その時にエンドロフィリアにも寄生された。
 こちらは寄生されてから1ヶ月程度で頭部の肥大化が起こり最終的には爆発して死ぬ――――――はずだったのだが、こちらもかれこれ半年以上経っても症状が出ない。
 研究者達曰く、頭の中で繁殖はしているらしいが、常に一定数に保たれているため肥大化しないのではないかと言われた。
 なんで私だけそんな事になっているのか⋯⋯甚だ疑問ではあるが、推論としてマッドウイルスが宿主である私を守っているのでは無いかと思う。
 マッドウイルスによる感染症は、内部から徐々に泥化していく病だ。主要の臓器が泥化すると死亡する―――なんて事にはならず、むしろ完全に泥化するまで死ねないのが最大の特徴である逆ハイスペックウイルスだった。本当に迷惑な話である。
 この特性を謎の抗体とやらで取得してしまった私は、自分の意志で泥化出来るようになった。
 形状は2種類でスライム型と人型。
 研究者はスライム型を泥化、人型をマッドマンと敬称し、私はマッドマンの方でアスタレアと戦っている。
 しかし、数が多いアスタレアに対して有効な戦力は私一人、その為戦力を増やし、ワクチンも作ると言う名目で私は研究者達に協力させられている。
 あらゆる研究と言う名の拷問に耐え、ようやく完成したと言う抗マッドウイルスワクチンは成功をおさめた。
 そこまでは良かったが、次に着手した人類マッドマン計画とか言うふざけた名前の計画は大失敗。
 更に人類滅亡に拍車を掛けた。

 現在私は地上でアスタレアの討伐と検体運搬をしている。
 ここまで追い詰められて、滅亡寸前になっても尚抗い続ける人類には舌を巻く。
 もし生き残れたとしても、この地上では作物も育たないだろうに―――そんな事を思いつつも、彼等の無謀な挑戦に加担する私も同類かと自嘲する。
『どうせいつかは滅びて、私を置いてイくくせに』
 そう想いながらも私は⋯⋯私と人類(かれら)との確たる違いには目を瞑り、今日も少しずつ滅びへと傾く人類とこの星の為に“汚染地域(よごれただいち)”を駆け巡るのだった。

5/30/2025, 2:15:02 PM