「わっ」
何か軽くパコンという音と共に、バランスを崩して後ろに倒れ込む。けれど、道に倒れるわけはなく、隣で歩いていた恋人が私をうまいことキャッチしてくれた。
さすが、救急隊員さん。
とっさの救助行動はお手のものです。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます!」
彼が背中を支えてくれるから、立ち上がろうとすると転んだ方の足がカクンッと力が抜けて、また彼の胸に寄りかかってしまった。
「あ、あれ?」
足に痛みは無いから、くじいた感じはなかったので足元を見るとヒールの踵が外れてしまっていた。
「わ、うそ!?」
これからデートなのに!?
今到着したばかりなのに!?
戻る……という選択肢も無くはないけれど……ここまで来るまでの往復の時間を思うと、それはためらってしまう。
お気に入りの靴だったし、割と履いていたから寿命なのかもしれないけれど、少しショックだった。
「どうしよう……」
すると、背中を支えてくれていた彼が、私をしゃんと立たせてくれる。その後、私の正面に回ったかと思うと、しゃがみ込んで両手を後ろに向けてくれた。
「背中、乗って」
「え!?」
それは……おんぶしてくれるってこと?
「でも……」
「軽いから、大丈夫。ほら乗って!」
さすがに体重を全部預けるのに抵抗を覚えていたら、見破られてしまっていた。
私はおずおずとしながら、彼の背中に体重をかける。すると、簡単に背負ってくれた。
普段、色々な人を助けているから、私くらいは本当に軽いのかも……。
「ちゃんと掴まってね」
「うん、ありがとうございます」
「君が悪いわけじゃないから、気にしちゃダメ」
少し迷いはあったけれど、お言葉に甘えて彼に後ろから抱きついた。暖かい彼の背中に、覚えはないけれど懐かしさを感じてしまった。
こんな風に背中にぎゅっとしたことは、あまりないなー。なんてぼんやり考えてしまった。
「とりあえず、靴屋さん探そ」
「うん」
周りの視線は少し痛い。
でも、見た目より広い彼の背中に寄り添っていると、安心してしまい眠りに落ちそうになった。
おわり
二六九、君の背中
2/9/2025, 1:36:57 PM