300字小説
チートなヒーロー
兄は自分は過去に戻ることが出来ると言っていた。時計の針を遡るように、好きなときに戻り、やり直せると。
確かに兄は株も賭事も外したことは無かったし、兄の言う通りにすると事件や事故を回避することが出来た。
『俺の人生、チートにも程があるだろ』
そういつも豪語していた。
その兄が亡くなった。駅裏の路地で変質者に刺されて。捕まった犯人の自供によると本当は朝の受験生で溢れる電車で無差別殺人をする予定だったが、兄にそれを指摘され、カッとなって刺したという。
その電車には娘が大学受験で乗っていた。
「……おじさん、笑ってる……」
兄の話は本当だったのだろうか。満足げな死に顔に礼を言う。
「娘の未来を守ってくれてありがとう」
お題「時計の針」
2/6/2024, 11:18:07 AM