近ごろめっきり寒くなった。クローゼットの奥にしまってあった衣装ケースから長袖の服を引っ張り出す。何でもいいからあったかいものを、と思って適当に出したのに。まさかこの朱いカーディガンとは。
色物の服なんて選ばない僕に、彼女がプレゼントしてくれたもの。絶対に似合わないと思っていたのに、勧められて着てみれば意外としっくりきた。この色にこういうトップス合わせるといいよ、とか、パンツは細身のほうがかっこよくキマるよ、なんてアドバイスをもらいながら僕なりに着こなした秋。あれから数年が経ってしまった。
袖を通して鏡の前に立った。だが、あの頃はあんなに着こなせていたのに、そこに映る僕の姿は想像していたものと全然違っていた。やはり彼女が褒めてくれてその気になっていたからうまく着こなせていたんだろう。1人になった今では、このカーディガンを活用する自信がない。それなりに着たから棄ててもいいだろう。そう思って畳んだそれを部屋の隅に置いた。代わりに羽織れる別のものを探すため再び衣装ケースを漁る。ついでにタンスの中身も替えよう。衣替えだ。もうすっかり秋真っ只中なのだ。季節の移り変わりがこんなにも早いなんて。そりゃ僕も歳取るわけだ。
キミは、どうしているだろうか。元気に夢を追いかけているだろうか。キミと一緒にいた頃は本当に多くのものを貰った。物質的な意味もあるが、見えないものもそうだった。僕には無いものをキミは沢山持っていた。いつも瞳はキラキラしていて、自分の意志を持っていて、強くて優しい人だった。
思い出は物として形にできないけど、僕はあの時の楽しかった日々をずっと覚えてる。この先、キミと別れた秋を何度迎えても。
「……なんて、未練ったらしいか」
やっぱりあの朱いカーディガンは棄てよう。じゃなきゃ僕は決別できない。思い出は大事にするけれど、いつまでも縛られるのは良くない。まだ今年の秋は終わりじゃない。新しい服でも買いに行こうかな。今度は自分で朱いカーディガンを選ぼう。
10/23/2023, 2:18:03 AM