タイトル【日常のより道】
文字数 400文字くらい
日常に不似合いな声を聞いた。
それは獣の咆哮のようでもあったし、人の断末魔のようでもあった。直後、ドン、と何かが落ちた鈍い音が耳に飛び込んできた。逃れられぬ人のさがなのだろう。私は咄嗟に、思うにスタートの合図を待つ陸上選手さながら、あるいはそれ以上の神経で、声のした方へ顔を向けた。
刹那、落下する黒い影が、私の視界の端を掠めた。
根拠があったわけではないが、私は人が落ちたのだと思い、視線を落下したであろう地点へ動かしてみるが、そこには何も無かった。
先ほど歩いた、ひび割れたアスファルトだけが、ただただ伸びているだけである。
呆然と立ち尽くしていると、ある考えによって全身が粟立った。
因果が逆だ──
生存本能に従うように、踵を返しそそくさとその場を後にした。その時、道の傍に栓の開けられていない缶のコーラと明らかに添えられたであろう名も知らぬ花があるのを見た…………。
1/26/2025, 3:32:18 PM