美坂イリス

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 バスを降りると、響き渡るのは蝉時雨。

「やっぱ田舎だねぇ……」
 畦道脇のバス停の椅子に荷物を置いて、私は周りを見回す。うん、まだ青い田んぼに、緑の山々、その向こうには白い入道雲が浮かぶ青い空。
「ま、街の方よりは涼しいよね」
 確か、バス停の近くに小さな川があったはず。そこを通る風が、汗ばんだ肌を冷やしてゆく。
「しっかしまあ、変わらないもんだね……」
 最近はもう、夏ぐらいにしか実家に帰ってきていないけれども、この風景は幼い頃から変わらないまま。
「さて。じゃあ、家に向かいますか」
 誰にともなく、そう呟く。ここからは歩いて七分ぐらい。そこまでたいした距離じゃない。

 そして、私は目を細めながら空を見上げた。
「ただいま、夏」

8/5/2025, 3:25:54 AM