文学なんて勉強して何になるの?
進路に悩んでいた高校生のとき、情報系の分野を
目指す友達から何気なく言われて、私は言葉につまってしまった。その子に悪気はなかったのだとは思う。
本が好き。だから日本文学を学べる学科にしよう。
それくらいのシンプルさで、漠然と文学部に進むものだと考えていた私は恥ずかしい思いをしなければならないのかと、妙に縮こまってしまった。
でも、同じ文学部を志望する別の友達は、その問いにさらりとアンサーを出してきた。
文学を学ぶって、心身を削って考えて考えて、考え抜くこと。つまり物事に対する考え方や価値観を学んで、自分の生き方に反映させることだと思う。
これから経験する深い悲しみ、憤り、後悔、自分の力じゃどうにもならないこと、それらにどう向き合っていくか、生きる対処法を身につけることができるでしょ。
避けようのない人生の岐路に立ったとき、
文学の学びを通して得たものが道を開いてくれる、自分を自分たらしめる指針になるって、私は信じているから。
だいたいこんなような演説をしてのけて、私はぽかんとしてしまった。彼女はまだ18才になったば
かり。胸の底でくすぶっていたものを根こそぎえぐり取られたような衝撃だった。
そして私は、そこではじめて「キロ」という言葉を知った。だからこの言葉を目にするたびに、あまりにも眩しかった18才の彼女を思い出してしまう。
6/8/2023, 10:58:43 AM