とある恋人たちの日常。

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 さっきまで迷子になっていた恋人の手を繋いで目的の場所に歩いていく。
 こういう時に限って彼女のスマホの充電が付きかけているんだから、びっくりしちゃうよ。
 
 充電器を渡そうと思ったけれど、繋いでいる手を離さないといけなくなるから後回しにした。
 
 一緒にいるんだからいいや。
 
 一瞬、彼女に連絡を取りたい人がいたとしたら……いや、それは彼女の責任だ。まあ、察する人は俺に連絡寄越すでしょ。
 
「ごめんなさい、怒ってますか?」
「え!?」
 
 色々と思考を巡らせていたところ黙々と歩いてしまっていたので、彼女が不安の声をあげる。
 
「あ、ああ。いや、ごめん。違う違う。怒ってないよ」
 
 不安そうな彼女の正面に振り返り、彼女が安心するように笑顔を向けた。
 
「心配したんだよ」
 
 俺の言葉を聞いた彼女は、繋いだ手に力を入れる。
 
「心配させて、ごめんなさい」
 
 その悲痛な表情は、本当に後悔しているのが伝わる。
 繋いでいない手で彼女の頭を優しく撫でた。
 
「今日からスマホ充電チェックするからね」
 
 それを伝えたら彼女も安心したようにふわりと笑ってくれた。
 
「はい、お願いします」
 
 その言葉を聞いて俺はまた前に向いて目的地へ足を進める。
 
 今日は仕事関係で色々な所へ行った時、気になる場所があったから調べて仕事後のデートで連れて行こうとしたら、このハプニングだ。
 
 バイクや車では入れないところだから、そのまま歩き続けると空気感が変わってくる。
 
 開けたところに出ると都市を見渡すことが出来る展望台にたどり着いた。
 
「わあああ! 凄い景色!!」
 
 彼女が興奮気味に声をあげて走っていきそうになるけれど、繋いだ手が離れそうになるので、それは止めた。
 くんっと引っ張られて驚いた表情が俺を見る。
 
「今日は離さないって言ったでしょ」
 
 不服そうな顔をするかと思ったけれど、嬉しそうに微笑んでから俺の手をゆっくり引っ張った。
 
「なら、一緒に見に行きましょ」
 
 そして同じ歩幅で展望台に歩いていく。
 
 うん。
 君とこの景色を見たかったんだ。
 
 
 
おわり
 
 
 
三〇九、君と見た景色

3/21/2025, 2:29:04 PM