No.43『ひとつだけ』
散文/掌編小説
「ひとつだけ願いが叶うとしたら、何を願う?」
唐突に恋人が言った。
「ひとつだけ?」
「そう」
それは難しい問題だ。
アラビアンナイトなお話の精霊は、三つのお願いを叶えてくれるし……、あ。流れ星が叶えてくれるのは、ひとつだけか。ただ、三回口にする台詞の中に、三つの願いを織り込めれば、三つの願いが叶うのだろうけれど。
「ひとつだけかあ」
思わず口にする。単純に考えれば、一生、遊んで暮らせるだけの現金とかなんだろうけど、ラブストーリーにありがちなそれじゃないが、愛はお金では買えない。かと言って、愛さえあればと言うとまた違うし、わたしはとうとう頭を抱えてしまった。
「じゃあ、あんたはどうなのよ」
「俺?」
これといった答えが浮かばなくて、聞かれた質問に質問で返す。
「俺は、願いごとを叶えて欲しいって願うかな」
「は? なにそれ」
何かを思いついた様子の恋人は、珍しくドヤ顔でこう続ける。
「俺が願いごとを言ったら、それを全部叶えてくださいって願うんだよ」
さもいい答えだろうとでも言いたげに胸を張る恋人が可愛くて、わたしは思わず笑ってしまった。
お題:1つだけ
4/3/2023, 12:49:12 PM