猫又テン

Open App

想い人と同じ電車に乗っているということは、とても幸せなことだと思うのです。

クラスが違うあなたと私は、あまり会話をしませんでした。前に一度だけ同じクラスに入ることが出来て、辛うじて認知されているような、そんな希薄な関係でした。

授業も何もかもが違うあなたの傍に居れる、唯一の機会が、この登下校の際に乗る電車なのです。

毎度、私はあなたの姿に視線を釘付けて、あなたがこちらを見れば、きっと目が合ってしまう。そんなことを想像して、頬を朱に染める。

それだけで満足で、それ以上を望むなど、なんてわがままだろうかと、そう思っていました。

嗚呼、神様、私はあなたに何かしてしまったのでしょうか。

肩に伝わる温もりと、あなたの寝息。
そう、あなたは今、私の肩に頭を乗せて、眠っていたのです。

本当に奇跡としか言いようがない確率でした。
たまたま座った席の隣に、たまたまあなたが座るだなんて。
私のことを覚えていたのにも、驚きを隠せませんでした。

一言二言、言葉を交わして。
確か、あなたのクラスは体育の授業がありました。だから、疲れていたのでしょうか。

あなたが妙に静かになって、そして。

心臓がけたたましく脈打つようでした。
あまりの喧しさに、あなたを起こしてしまうのではないかと、それが心配でした。

目が覚めたあなたは、どんな反応をするのでしょうか。
きっと慌てて飛び起きて、その後ハッと電車の中であることに気付いて、声を潜めて、謝罪をする。

そんな光景を想像出来ました。

時が止まってくれれば。
そうなれば、私は幸せのあまり死んでしまうでしょうが、それもまた本望なのです。


『時間よ止まれ』

9/20/2024, 9:11:04 AM