海は、どうしてこうも青く澄んでいるのか。水色の空に、大きくある入道雲。砂浜に押し寄せる小さな波。その小さな波に、私の足は、少し浸かる。私の足は裸足で、靴と靴下は浜辺のパラソルの下。私は、波の音をききながら、遠くの、青く光っている海を見ていた。足の爪の間に、少し違和感があって、それでも、絶えず吹き続ける、心地の良い風。でも、潮風が、喉を焦がす。
私が、そうやって海の様子を見守っていると、後ろの方から、声をかけられた。
「どうした?こんなところで。」
声の方向を向くと、私の親友である、中也が立っていた。
『……。別に。少し、海が恋しくなったのさ。』
私はそのまま、私の靴と靴下のあるパラソルの下へ行った。そして中也も、そのパラソルまで来てくれた。足を動かすたび、不安定な地面に転びそうになる。
「……タオルは貸してやんねぇかんな?」
私の足は、砂と落ちていた木の皮がびっしりと、海に浸かっていた部分だけ並んでいた。私は、中也のそんな宣言を無視して、中也にそのまま抱きついた。同い年なのに、中也の方が遥かに小さいから、覆いかぶさるようになってしまった。
『本当にどうした?』
中也の、困惑したかのような声が耳元から聞こえる。それでも、中也は私の背中に手をそえて、抱き返してくれた。中也の髪が、頬に当たってくすぐったい。
「中也は、僕のこと、置いて逝かないでね?」
つい、意識的に変えていた一人称が戻ってしまった。でも、中也は驚くでもなく、指摘するでもなく、ただ、私の弱った心を包み込むようにして、優しく言った。
『…‥ああ。大丈夫だ。もし逝くとしたら、そん時は治も一緒だろうなぁ。』
治っていうのは、私の名前。つい先日、私の友人が死んだのだ。事故死だった。工事現場の鉄骨が、友人の頭上に降ってきたんだ。
私は、その友人が街を歩いているところを偶然、見つけた。友人は私の少し前の方にいて、私は友人に話しかけるべく、友人の背中を追った。でも、私は体力がなくて、すぐに足が動かなくなった。私は、友人を呼び止めようと声をかけた。かけようとした。そしたら、目の前で、友人の頭上に、鉄骨があるのが見えた。友人のいた場所に鉄骨が落ちていて、鉄骨の下には、人が倒れていて、血が飛び散っていて。
今でも鮮明に、思い出すことのできる記憶。それを、中也は知っているのか、定かではないが、中也が、あんまりにも温かく私の頭を撫でるから、安心してしまった。目から涙がこぼれ落ちる。手足が震え、中也を抱き締める力が強くなる。頭を、中也の肩にぐりぐりと押しつける。中也の服は、私の涙でぐちゃぐちゃになった。そんなことになっても、中也は、ずっと、私の頭を撫で続けてくれる。私の口から、小さな嗚咽が漏れる。だが、すぐに声を抑えるのが難しくなって、そのまま、私は中也に縋り泣いた。声が枯れるまで叫んでも、手足に力が入らなくなっても、涙は止まらないし、中也の温もりも消えない。安心しきって、私は周りのことも気にせずに泣いた。ただ、親友の体温に、言葉に、安心した。ただそれだけだった。
涙もようやく枯れて、波の音が戻ってきた。私の目尻には、いまだ少し、涙が溜まっているけれど。
「中也と私は、ずうっと、いっしょ、だったら、いいなぁ。」
そんな私の願いが、波音に、さらわれないように。私は、もう一度、中也をしっかりと、抱きしめた。
7/6/2025, 1:11:32 AM