赤い海にいるようだと、思った。
真実、ここは海ではなく学校の廊下なのだが。
ワックスをかけて、1日しか経っていない廊下の表面は、水面の如く輝いている。また、軽く波打つ廊下の表面のせいで余計に、自分は水面の上に立っているのだろうと錯覚してしまう。
しかしそんな訳はなく、何もない夕焼け小焼けがただ単純に、照らしているだけだ。
けれど、赤い海に見えることに変わりなく、早くここからいなくなってしまおうという気持ちは、先程から変わらない。
日から背を向け歩き出せば、くんっと服を引かれる感覚に気がつき、振り向く。
振り向けばそこには男がいた。男の顔は影って見えて、誰かは伺えない。
伺えないが、手を差し出されているのはわかる。その手を掴もうかと、手を伸ばす。
そんな時、貴方のそばにと、自分の口から言葉が漏れるが、自分は今そんな言葉を吐いたのかと疑問と、恐怖に苛まれる。
そうして、差し出された手に触れようかと思えば、明るいチャイムの音が一つ二つと鳴る。ハッとして、目を手を差し伸ばした相手に目をやれば、そこに誰もおらず、赤い海もただの青い海に戻り、空気も穏やかなものに戻る。
しかし、あれはなんだったのだろうかと首を傾げて、また先程行こうとした道を急ぐ。
ただ、そんな、不思議な話だった。ただ、それだけのことである。
1/15/2025, 1:29:08 PM