『元気かよ』
ポツリとひとり、奴がよく訪れていた公園の丘から星々が煌めく夜空を眺めて、心の中で奴へと語りかける。
――数年前。自称宇宙人だった男は、突然、故郷の星とやらに帰っていった。
“地球人を幸せにする”
それが自分の贖罪なんだと嫌になるほど聞かされては、適当に受け流していたが、いざそれが叶ったとき。あいつはようやく罪が許されたというのに、嬉しそうな顔をせず、ただ寂しそうに眉を下げて笑っていた。
数年も前の事なのに、今でもはっきりとあの時の奴の顔が思い出される。
あんな顔をするならば、故郷の星とやらに帰らなければ良かっただろ。
夢の中に時々出てくるあいつは、かつての日々と同じように、宇宙の話や星座の話、どうでもいい話を続けては、ふとした瞬間にこちらに微笑みかけ、キスをする。
俺と奴は、常にひとりで、それなのに、気がつけば傍に居た。
周りからはよく恋人なのかと勘違いされていたが、俺と奴の間にあったのは、ただの情だ。
愛情、とはまた違う。近いものもあったような気がするが、今となってはもう分からない。
――そっと、目を閉じる。
瞼の裏に、過ぎ去った日々が次々と過ぎっていく。
今も、この世のどこかで生きているだろうあいつに、時々こうして想いを馳せる。
あいつが居る空間は、居心地が良かった。出来れば、手離したくないと思っていた。
だが、奴の意思で俺の傍から離れると決めたのなら。俺はもうそれを止めやしない。
奴が居なくなっても、俺は何も変わらない。
今も昔も、ただ歌うだけだ。
※二次創作
3/10/2024, 10:45:13 AM