君の声がする。
スクランブル交差点の真ん中まで来たところで、ある種の既視感が通り抜けていった。
振り返ると、人の波が押し寄せる。皆一様に顔がなかった。
僕の記憶のなかの君の顔は霞がかっている。あるいは、ここにいる人々と同じく君にも顔がなかったようにも思う。
顔のない人はどうやって見つけてもらうのだろう? この世の服は全て同じ型で作られているのに。
原型に交わる道はない。不備のない工場のように一定のラインを流れていく。
美しさとは均して整えたものらしい。熟練の職人が鉋をかけて作り上げた無疵の平面。それが現代では何にも勝る『善いもの』になった。
柔らかく削られた声が僕の耳に触れ、霧散する。
君の声がする。
2/15/2025, 1:48:30 PM