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『三日月』

しんと静まり返った真夜中。
街灯の届かない路地裏を黒猫が歩いていました。

​黒猫の目的は、今夜の特別な獲物。
空に浮かぶ、鋭く研がれた爪のような黄金の三日月。

黒猫は古い時計塔の屋根まで一気に駆け上がると、月に向かって前足を伸ばしました。

​不思議なことに、彼が空を引っ掻くたびに、夜の帳がわずかに揺らぎます。

シャッシャッ、ゆらゆら。
シャッシャッ、ゆらゆら。

次第に街へと降りてきた夜の帳。

黒猫は三日月の端を器用に咥え、まるで重力から解放されたように、夜空の海へとふわりと浮き上がりました。

​そして月を揺りかごにして、都会の喧騒を見下ろしながら静かに目を閉じました。

翌朝、人々は何も気づきませんでした。
けれど、夜になればきっと誰かが不思議に思うでしょう。

なぜ昨日まであんなに尖っていた三日月が、今夜は少しだけ猫の背中のように丸みを帯びているのかと。

1/10/2026, 9:56:35 AM