誰かの話し声が聞こえる。聞き覚えのない声だった。どうやら複数人居るようだ。
気を失っていたのか。重い瞼を開けると、誰かが僕の顔を覗き込んでいた。
「あ!目を覚ましたよ!」
一瞬、ギョッとした。僕の目の前に居た人物は、狐のお面をつけていた。背が低く、子供のように見えた。
「痛いところはない?」
今度は大人の女性の声だ。同様に狐のお面をつけている。
ハッとした。周りを見ると、狐のお面だらけだった。
「あの、ここは……?」
「村長の家だよ。お兄さん、倒れてたんだよ!」
先程の子供が答える。そうか、確か階段を登っている途中で……。
「あなた、山の麓で倒れていたの。この子が見つけてくれたのよ」
山の麓で?そんなはずはない。
「あの、確か山頂へ続く階段を登っていたはずなのですが」
「山頂へ?………。ここら辺の山は立入禁止で、どこも閉鎖されていたと思うのだけど」
女性がお面の口元に手を当てながら言った。
動揺した。僕は確かに山の麓の階段を登っていた。彼女との合流地点へ……。
「そうだ、女の子を見ませんでしたか?僕と同い年くらいの」
山頂で待ち合わせをしていたんです、と伝えた。
「見つけたのはあなた一人よ」
あとは私達村の人間だけで、他の子は見ていない、と申し訳なさそうにその人は言った。
「そんなことより、お兄さんもお祭り行こうよ」
僕が黙っていると、急に子供が僕の手を引き立たせようとした。
「こら、無理やり引っ張らないの」
女性が窘める。この女性は子供の母親のようだった。
「お祭りがあるんですか?」
「ええ。今日と明日、二日間あって、今日は皆で狐のお面をつけて村中を練り歩くの」
その途中であなたを見つけたのよ、と。
「この後は神社に行って、皆で"お焚き上げ"するんだよ!」
横で子供が元気良く言った。楽しみだね!と、母親に笑顔を向ける。正確にはお面で顔は見えないが、声色から満面の笑みが想像できた。
夏の祭りの時期にお焚き上げをするなどあまり聞いた事がないが、地方によって色々と風習の違いがあるのかもしれない。そう考えて、あまり深くは追求しなかった。もしかしたら、子供が勘違いをして勝手にお焚き上げだと思っているだけで、本当は別の名前の何かだという可能性もある。
そのままの流れで、僕も一緒に祭りに参加する事になってしまった。
3/2/2025, 5:00:16 AM