雨が降ると紅茶が飲みたくなる。雨の降り始めは息が詰まるし雨足が強まるにつれて息がしづらくなるから。最初は痰がからむ程度なのに、次第に吐く息にヒューと隙間風の様な音が混じってきて、気を付けて息を吐かなければ止まらない咳が出始める。咳は嫌だ。一度出始めると肺も喉も刺激して、ただでさへ狭まっている気道が更に狭くしていく。だからグッと我慢するんだ。ゆっくり浅く息を吸って、ゆっくり浅く息を吐いて、出来るだけ刺激を与えないように息をする。それでも出そうになる咳を呼吸を止めて押し堪えるんだ。辛い。辛い。辛い。もう慣れたものだけど、時間だけが解決していくものは待ち耐え忍ぶしかない。親と一緒に住んでいた頃は、雨の日には温かいミルクティーをよく作ってくれたんだ。紅茶をしっかり煮出して、興奮作用のカフェインたっぷりの濃厚な甘い香りがするミルクティー。雨の降り始める前に飲んで、その後にもう一回飲めば、嫌らしい咳は成りを潜めてくれた。あまり使いたくない吸入をして、暫くじっとしていれば動ける様になる。あまり働いていない頭を支えてフラフラと紅茶を淹れ始める。牛乳も片手鍋を洗う元気もない。ただ、マグカップにティーパックを淹れてお湯を注ぐ。ちょっと濃い目に出して、トチの木のはちみつを加えて飲む。でも香りはアッサムで、アールグレイじゃなかった。あの独特の甘い香りでは無かった。ままならない。取り敢えず、その一杯を飲み干した。
題「紅茶の香り」
10/27/2022, 10:35:09 AM