せつか

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植物も、動物も、幼い頃から上手く育てる事が出来なかった。
植物は花を咲かせること無く枯れ、動物はある日突然動かなくなった。
命を育てることに向かない手、というのがあるような気がする。怠けている訳では無いし、面倒だと思った事など一度も無い。なのに何故か死なせてしまう。

まるで底の空いた桶に水を注ぎ続けているような、そんな虚しさを感じる。……それはきっと、私自身が愛情というものを理解していないからだろう。私の母は、私を人間としてでなく道具として育てた。自らの生を彩る為の装置、自らの欲を満たす為の部品として、都合よく働かせる為の我が子だった。そんなものに彼女が愛情などを注ぐ訳がなく、結果出来上がったのは空虚な、底の空いた桶のような私だった。

「簡単な事だよ」
穏やかな声で男は囁く。
「底が空いてしまっているなら、塞げばいいんだ」
頬にひやりとした手が触れる。だが今は、その冷たさが心地よかった。
「私が呪いを解いてあげるよ」
囁きと共に近付いた唇が、私の唇に軽く触れる。
「まずは……君が私とどうなりたいのか、だね」
「……」
望みを聞かれるのは初めてだった。その時胸に沸いた仄かな温かさは、何だったのか。

こんな〝簡単な事〟を、私はずっとずっと欲していたのだと気付いたのは……部屋に置かれた小さな花に、新しい蕾を見つけたある朝の事だった。


END


「愛情を注ぐ」

12/13/2023, 3:22:17 PM