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花束に関して、誰にも話していない「しょん…」とする話がある。10年ほど前に、私の働いていたバイト先の店長が独立してオーナーになるというタイミングがあった。割とロマンチストな店長だったので、私はサプライズで花束を渡そうと思い、家とバイト先の間にある小洒落た花屋に初めて入った。奥には小さなおじいさんがムッとした顔で座っており、私はやや緊張しながら花束にする花を選んでいた。
「全体的にオレンジっぽくなるよう、1000円前後で小さい花束を作っていただけますか…?」
とおずおずと問うと、おじいさんはカウンターから這い出てきて、なれた手付きで花を選び、束ねてくれた。しかしラッピングの段階でおじいさんは深刻な顔になる。

「ラッピングはいつも息子に任せてるのでやったことがない」

えっ!最初に言ってくれれば考慮するのに…!そこにあるアレンジメント済みのやつ買いましたのに!しかし、不要な枝葉や花びらをとってしまったそのお花を戻させるわけにもいかん。
「…一緒にやりましょう…!!」

そして私はおじいさんと力を合わせ、苦心してラッピングを施していく。しかし、私とてなんのスキルも持っていない。できあがったのは花束というには無理のある、こどもが野山でつんできたような物体だった。見様見真似でくるんと巻こうとしたリボンがくちゃくちゃとよじれて、哀愁がただよう。

私は面白おかしく事情を話して店長に花束を渡した。店長は…笑って喜んではいたが、同時に、目に哀れみや寂しさのようなものを湛えていた。

誰が悪いでもないこの出来事を、私は花束を見かけるたびに思い出すのだ。

2/10/2024, 12:31:38 AM