イオリ

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喪失感

お姉ちゃんが意地悪して、僕のイチゴを取って食べた。最後に食べようとしてたショートケーキのイチゴを。僕の誕生日なのに……。

だって食べないから、嫌いなのかなって。

お姉ちゃんはからかうように言ったけど、どうでも良かった。

僕は目の前で起きた惨劇を、できるだけ落ち着いて整理しようとしていた。けど、なかなか上手くいかない。

だって、ショートケーキからイチゴを奪い取るなんて……。そんな事がこの世にあっていいのだろうか。許されるのだろうか。

それに、イチゴが無いショートケーキをショートケーキとは呼べないのではないだろうか。じゃあ僕はそれまで、何を食べていたと言うべきなのか……。


ダメでしょ、お姉ちゃんなんだから。はい。 そう言ってお母さんが自分のイチゴを僕の皿に載せた。が、

ダメだ、まだ現実を受け入れられず、言葉が出なかった。

結局、しばらくはお姉ちゃんとは口をきかなくなった。


1年経って。

僕の皿のショートケーキの上に、イチゴがひとつ転がってきた。お姉ちゃんが自分のをフォークで移したのだ。

なに、これ?

別に。誕生日だから。

じゃあ、と食べようとして去年のことを思い出した。

僕の方はすっかり忘れていたけど、お姉ちゃんは1年前の悪行をずっと覚えていたみたい。
ずっと気にしてたのかな。

可愛い弟の1部を、何処かへ無くしてしまったみたいに感じていたんだろうか。

1年間ずっと……。

なんと言っていいかわからないまま、もらったイチゴを食べた。

美味しい? お姉ちゃんが訊いてきた。

うん。

お姉ちゃんも食べればいいのに。そう思って自分のイチゴを返そうかと思ったけど、なんだか照れくさくてやめた。理由もなんて言って返すか思いつかなかったし。

だから、次のお姉ちゃんの誕生日に僕のイチゴをあげよう。お姉ちゃんとおんなじように、誕生日だからと言って。これなら自然な理由なはず。


9/11/2024, 12:48:57 AM