「キスだけならいいよ」
月と星の光のみが差し込む薄暗い部屋には、生温い空気と乱れた二人の呼吸がのみが鳴り渡る。
軽いキスを何度か交わした後、どちらからともなく、口を開け舌を差し込む。
セイヤは僕の腰に腕を回し、もう片方の腕で後頭部を押さえている。その一方で僕は、行き場のない手をセイヤの胸に置き、心臓の鼓動を感じていた。
セイヤは理性を保ちきれず、欲望のまま舌を絡める。
不本意に口から声が漏れる。唾液が口から溢れ、顎を伝う。ふとデジタル時計が目に入る。時刻は23時45分。もう少しで日付が変わる。
甘い雰囲気からハッと目を覚ました僕は、口を閉じて舌の侵入を防いだ。
「…どうした」
セイヤはきょとんとして、潔く顔と顔の距離を離してくれた。
「明日、朝早いからもう寝ないと」
セイヤは眉をハの字にしてしょんぼりとした顔で不満そうに言う。
「今夜はだめなのか?」
いつもこの顔の良さに負けて雰囲気に流されてしまうが今日はそんなことはあってはならない。
「キスだけって言った。もうおしまい。早く寝よ」
言いながら目覚ましをセットして絶対に流されまいと、ベッドに横になり、布団を被る。セイヤも渋々承諾し、僕に続いて布団に入った。唇にはまだ、先程のうっとりとしてしまう柔らかい感覚が微かに残っていた。
「今日は珍しく流されてくれないんだな」
囁くような小さな声。
「本当に大事な用だから」
気が変わってしまう前に目をぎゅっと閉じ、いつものように流されぬよう、セイヤに背中を向けた。セイヤは僕の腹に腕を回すと、ぐっと引き寄せた。背中が密着し、体温とセイヤにしては早めな鼓動が伝わる。太ももの付け根あたりに何か硬い"モノ"があたる。わざと押し当ててるようにも感じる。
「…明日はちゃんと、最後まで責任とってもらうからな」
頬は熱を帯び、下唇を噛んだ。心臓がドキンドキンと脈打っている。うなじにキスをされた後、腹に巻き付いた腕を離すことなくセイヤは眠る準備を始めた。しばらくすると首の後ろですー、すー、と呑気な寝息が聞こえてきた。僕も明日に備えてもう寝よう。
──Kiss
2/4/2024, 1:46:05 PM