300字小説
歩む道は一つ
ないものねだりだと言われ続けてきた。これだけの力を持つ妖なのに、何故、そこまで人の人生にこだわるのだと。そんな私にある病弱な娘が取り引きを持ちかけた。
『私への報酬はここまで心を砕いて育ててくれた両親の最期を看取ること。それを叶えてくれるなら、私の名前も戸籍も、人として人生を送るのに必要なデータを全てあげる』
私は夜中、密かに息を引き取った娘を要望どおり、人知れず葬り、そのまま娘になった。
「……本当に元気になって……」
高校の入学式。父と母が私の制服姿に涙をこぼす。娘が通いたいと望んでいた学校の門をくぐる。お前が病床で夢見た生活を私が送ってやろう。
貰った娘の人生を、私はこれから娘と共に歩み続ける。
お題「ないものねだり」
3/26/2024, 11:39:08 AM