胸の鼓動 (9.8)
国語のテスト返し。だが鼓動が鳴り止まないのは別の理由がある。しきりに前髪をとかしてみる。
「今日の放課後、時間ある?」
何度も繰り返したそのセリフをおまじないのように唱えて、しかしさらに震える手を強く握った。
ちらっと斜め前を見ると、顔色ひとつ変えずにテストを確認している少年がこちらに近づこうとしていた。慌てて解説を見ているふりをする。
「今回どう?」
「まあまあかな」
「でた、『まあまあ』。絶対いいやつだ。」
ニヤリ、とその笑みが今は苦しくて仕方がない。いいや今日こそ。少し唇を湿らせて口を開いて…
「あのさ——
「うーわお前98点とかキモっ」
他の男子が少年の肩を組んで冷やかす。ムッとして言い返す彼は離れていってしまった。体を熱くしていた勇気はみるみる萎んでしまう。
もう、やめようか。一生伝えずに…
「ごめん、さっきの何?」
バクリと心臓がひっくり返った。申し訳なさげにそばめられた眉毛。影を落とした顔を直視して息が止まる。
ほんと、そういうところだよ。
「今日の放課後、時間ある?」
9/8/2023, 11:02:26 AM