ミントチョコ

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題 遠い鐘の音


遠くで鐘の音が聞こえた気がした。

「あれ?あの鐘の音ってなんの音だっけ?」

何度も鳴っている気がするけど、いまいち分からなくて、私は近くにいたマナさんに聞く。

マナさんは牧場を営んでて、いつも外にいるのだ。
遊んでいる時は、遅くなると、もう帰りなさいって教えてくれる。

「さぁ?なんの鐘だろうね?」

マナさんの返答を聞いた時に、不意に、この質問は何度もしているような気がした。

いままで無意識に聞いていて、そのまま消えていた返事。

でも、本当の解答はいつも得られない。

どこかで鐘が鳴ってる。
多分教会だ。
だけどミサがある訳じゃない。それは土曜。

いつも半端な時間、夕方になる時がある。

なぜ?

なんか気になってしまった。

マナさんの表情が翳ったように見えたのは、私が物事を邪推して見すぎているからだろう。

子供だけど、読書量が多いのは自覚があった。

きっと大したことは無いんだろう。

そう思った。

次の日、ミーンが行方不明になったって聞いた。

私と同じ小学校に通うミーン。


⋯⋯あれ?

記憶を遡る。


そういえば鐘が鳴った次の日は誰かが行方不明になっていなかった?

記憶力だけは自信がある、自分の記憶を思い返す。

確か、2ヶ月前はナキト、4か月前はフミヤ、6ヶ月まえは⋯。

2ヶ月置きにに誰か子供が行方不明になっている。

でもそれは、何となく流れていくニュースのように、大々的にならない。

だって居なくなった子供の両親は諦めているような、仕方ないような、そんな表情だったから。


私は思った。


次の時は真相を確かめようと。


次の鐘の音は、きっちり2ヶ月後に鳴り響いた。

私はどこで誘拐事件が起こるか分からないから警戒をしていたけど、もし私の知るところ以外に知るところ以外の時間帯で誘拐が行われているとすれば、もう追求しようがないと思った。

それでも、出来ることはしたかった。

夕暮れ時、マナさんがいつものようにやってくる。


「さぁ、そろそろ家に帰る時間よ」

「はい」

マナさんが私の手に触れた途端チクッと痛みを感じた。

疑問に思う間もなく、私は意識を失っていた。


しばらくして、私はふと目を覚ます。


ここがどこか分からなかった。

キョロキョロして、ようやく、鐘が近くにあるのを見て、教会の中にいることを悟る。

「はなしてー!!」

手足が縛られてて身動きできない。

私がなんとか逃れようとていると、そこへ誰かがやって来た。

「麻酔が弱かった?大人しくしなさい」

⋯それは、マナさんだった。

そして、後ろには神父さんがいる。
いつもニコニコして、子供には優しい神父さんだ。

今は歪んだ笑みを浮かべている。

「君はもっと後の順番だったのに、マナさんに鐘の意味を聞いたそうだね?危険因子から排除しなければいけなくなってしまったよ」

「大丈夫、この村のためになるのだからね」

マナさんはどこか狂気めいた笑みを浮かべた。

「この町はドラゴンに守ってもらっているのよ。あ、ドラゴンっていないって思ってる?私も見るまでは信じてなかった。ドラゴンはいるの、そしてね、子供の肉が大好きなのよ。仕方ないの、ドラゴンが外敵から守ってくれる代わりにドラゴンの好物を差し出さないといけないの。悪く思わないでね」

何を馬鹿なことを⋯と思ってた私の意識は、上空を被った暗い闇に途切れた。

緑の恐ろしい顔をしたドラゴンがこちらを覗いていた。
赤い燃えるような瞳、巨大な身体、硬そうなウロコ、口からはチロチロと舌か出ている。

「ひぃぃぃ」

私の口から無意識に悲鳴が出ていた。

「村の安全のために」

「村の安定のために」

マナさんと神父さんは、私の悲鳴など無視して、お祈りのポーズをしていた。

「ドラゴン様、どうかこの娘を生贄にして、村を守ってください」

神父が私をドラゴンの方へと追いやる。

誰かを犠牲にして何かを守るなんて、それが子供の命なんて、私は信じられなかった。

目の前に赤い瞳が迫る。

「しらなきゃ良かった!!」

絶叫が口から出る。

鐘のことなんて、そんな些細なことなんて見て見ぬふりをすれば良かった。

そしたらこんなことに⋯⋯。

私はドラゴンの赤い瞳が私の視界1杯を覆うのをどうすることも出来ないでいた。





「ミラリが行方不明なんだって!」

次の日、街の中にはそんなニュースが駆け巡る。

「まあ、仕方ないですね、家出してるのかも」

「わりと反抗的な子だったから」

「そうですよねー、年頃の子なら有り得るし」

「いちおう巡査に言っておきますか」

そんな事を言い合いながら、穏やかな調子で毎日が続いていく。

この平和の裏にある犠牲に、誰も気に止めることもなく⋯⋯。

12/13/2025, 7:30:45 PM