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『やわらかな光』

ほのかに白く光る真珠を幾つか、それとカミツレの花のエキス、緑柱石の欠片、獣蝋の削り粉、匂い消しに金木犀の花粉。

薬鍋をぐるぐるかき混ぜながら窓の外に浮かぶ月を見る。
今日は1年で一番大きな満月が昇る日だ。

北方ではすでにジャック・フロストが山を下りてきたとか。
今頃はきっと少年の姿で冷えた空気を振り撒いているのだろう。年の暮れには青年の姿、春先には老いた姿となり、最後は雪解け水として消えてゆく彼を想う。

さあ、仕上げにとっておきのものを注がなくては。

火から薬鍋を下ろして、窓辺に置く。
この熱が冷める前に、1年で一番大きな満月のやわらかな光を鍋の中へ。

上手くできたら、彼にも分けてやろう。

もしも気に入って彼が居座ったら、寒波が続いてしまうけど。

10/17/2024, 9:59:19 AM