彼はまるで風のような存在だった。気まぐれに擦り寄り、けれど次の瞬間には冷めたように離れていく。手を伸ばしてもするりと擦り抜け、繋ぎ止めておくことができない。彼は、きっと自由な風なのだ。彼の笑顔を見るたびそう思う。風に恋をしても空しいだけ。何度も自分に言い聞かせた。繋いでいた手を離す。何も気づかないで歩いていく彼の背中に、心の内で囁いた。――好き。大好き。愛してる。だから手を離すのだ。
10/9/2025, 9:55:29 AM