くり

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 20年前、成人式を終えた直後。引っ越しをした。

 親が念願のマイホームを買い、実家から出る気がなかった私は、付いて行った。急な話だったので、今でも急いで荷物をまとめたことを覚えている。
 転居後、すぐに必要のないものは引っ越し会社の段ボールに詰めたまま、押し入れの奥に収めた。必要がないものと分類されただけに、無くても困らなかった。次の休みには片付けよう。そう思いながら月日は流れ、とうとう1度も開けられないまま、私は2回目の成人式を迎えられる年になった。

 段ボールの存在すらも忘れていた、ある日。
 ふとしたことがきっかけで、押し入れの奥に到達した。そこに眠る段ボールを見つけた。マジックで大きく「すぐに必要なし」と書かれた段ボールを取り出す。懐かしさと怖さが入り交じった気持ちで、中を開けてみた。

 いったい何が入っているのだろう?
 中身は本当にすぐに必要がないものだった。

 当時、夢中で読んでいたマンガ、学生時代に集めていたアイドルの切り抜き、雑誌の付録、ワープロの感熱紙とインクリボン、クラスメイトと交換していた手紙など。当時は手を伸ばせば届く場所に置いていたものばかりだった。このまま捨てても支障はない。押し入れのスペースを空ける良い機会だ。部屋も片付く。蓋をして、ガムテープで閉じ直して……。

 また、元の場所に収めた。今度はいつ開けるかわからない段ボール。今は本当に必要のないものばかり。
だけど、20年前までの色々なものが詰まっている。
 赤色のマジックを手に取り、最も目立つ面に大きく書いた。

「いつまでも捨てられないもの」と。




8/17/2023, 2:40:38 PM