お茶の時間

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 今日は中秋の名月。
まんまるの月といえば、私にとっては団子である。

「くぅ〜やっぱこれだよね! 風花堂のみたらし団子」

 今年は中秋の名月に満月が見れると聞いて、慌てて買いに走った。ラスイチのお月見団子を購入できたのは本当についていると感涙したほどだ。みたらし団子が三本入っているだけなんだけど。
 特製のみたらしがほんのりと焦げた団子にこれでもかと覆い被さって絡みついている。この甘さ控えめなみたらしと程よい弾力の団子の組み合わせ、もう最高としか言いようがない。自分の語彙力の無さが嘆かわしいとさえ思うほどに。
 あー幸せ……

「なーに一人で食べてるわけ?」

 幸せに浸っていると、いきなり右腕が引っ張られた。団子の行方を目で追いながら凝視し続けると誰かの口の中に消えていく。

「先輩……」
「あ、これ風花堂のだよね。うまいな」

 視線を口から顔全体へシフトすると、先輩がもごもごと団子を咀嚼しているではないか。
 口の端についたみたらしを舌で舐めとると、先輩は獲物をみつけたかのように瞳を爛々と輝かせながら笑っている。
 あー、この人。絶対団子しか目に入ってない。

「うまいな」
「えと、よかったらどうぞ」

 一本恐る恐る差し出すと、先輩は団子を見つめたまま歓喜の笑みを浮かべた。

「え? いいのか? いやー悪いなあ後輩。そこまで言うなら仕方ない、ありがたく頂戴しよう」

 そんな涎を溢しそうな顔で言われても。どう見ても食べる気満々じゃないか。普段は澄ました顔だけに、他に誰もいなくて安心した。
 いつの間にか初めからそこにいましたと言わんばかりに隣に陣取ると、先輩は団子を一口で食べた。ひとくちで。

「うまいな〜もごもご」

 食べるの早くない? やだこの人、こんなに食い意地張ってる人だっけ? なんか最近、第一印象がどんどん崩れてる気がする。

「そういえば、今日は中秋の名月だったな」
 
 先輩は満足げにこちそうさま、と言うなり空を見上げる。
 つられて見上げれば、満月。
 そして、隣には先輩。

「綺麗ですね」
「ん? そうだな」
 
 ひやっとした涼やかな秋風が通り抜ける。
 暫くお互い無言で眺めていると。
 
「あ、違うか」
「はい?」
「お前の方が、綺麗だぞ?」

 いきなり何を言うのかと思いながら顔を向けると、先輩は悪戯が成功したかのように嬉しそうに笑っていた。
 月明かりに照らされたその笑顔の方が、どれほど綺麗かと。
 そう、思った。
 
 
 
 
 

11/14/2023, 1:37:55 PM