流れ着いたメッセージボトル

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シトシトと雨が降る。
梅雨入りしたとはいえ天気予報では降らないって予報だったのに…。
雨はそんなに好きじゃない。
ジメジメして冷えるし、外も薄暗いと気分もなんだか憂鬱になる。
そうして玄関口でぼんやりと外を眺めていたら、不意に後ろから声をかけられた。

「ねぇ、もしかして傘忘れたの?」

振り返ると背の低い小柄な女の子が立っていた。
どこのクラスの子だろうか、見たことは無い。
現状をズバリと言い当てられた事に少し気まずくなって目線を逸らす。

「その、予報が外れてしまって…」

ぎこちなくそう返事をしてまた外を眺めた。
いつまでもここに居たって仕方ない。雨は止みそうもないし駅まで走るかと考えかけたその時、不意に彼女が
「じゃあ、私の傘に入れてあげる!」と折りたたみ傘を掲げてにっこりと笑った。


雨の中を二人並んで歩いていく。
それじゃあ駅まで…と、彼女の好意で入れてもらった折りたたみ傘は少し窮屈で、触れる肩がなんだかくすぐったい。
初めは私が持つから!と彼女が傘を持っていたが、如何せん背の低い彼女と女子の中でもそこそこ高めの自分だとどちらが傘を持つかの結果は目に見えていた。
小さな彼女の手から早々に傘を取り上げ、濡れてしまわないよう少し彼女の方へと傘を傾ける。
何の気なしにそうしていたが、それに気づいた彼女は少し不満そうに物申してきた。

「もう、それじゃ傘を差してる意味が無いでしょ!」
「えぇ、でも貸してもらってる身だから…」

そう答えるとしばし考える表情を見せた彼女は、

「…だったら、こうすれば問題ないよっ!」

と言って私の腕にぎゅっとしがみついてきた。
一気に距離が近づき、ふわりと彼女の香りが鼻を掠める。突然の事にぱちぱちと目を瞬かせていると、名案でしょ?という顔をした彼女と目が合った。その瞬間、

「……かわいい。」

ポロリと零れるようにそう口にしていた。

「へ、」
「…え、あ、いや、今のは別に変な意味じゃ…!」

自分でもよく分からないまま慌てて謎の弁解を始める。
ただ無邪気に自分を見上げてくる彼女がなんだか可愛いなと、そう思っただけなのだ。
彼女はというと、腕にしがみついた体勢のままフリーズしていた。
恐る恐る声をかけると、ハッとした表情になるやいなや、顔を背けてしまう。

「え、えっと、…ありがとう?」

何故か顔を背けたまま、もごもごとお礼を言われた。
いきなり可愛いだなんて言って変なやつだと思われてしまっただろうか…と不安になるも、組まれた腕が解かれる事はなく少し安心する。

「…その、貴方みたいな綺麗な子にそんな事言われると思って、なくて…」

不意にそう言ってこちらをそっと覗き込んできた彼女の頬は少し赤く染まっていた。

「……え、っと…」

今度はこちらが固まる番だった。


雨はそんなに好きじゃない。
ジメジメして冷えるし、外も薄暗いと気分もなんだか憂鬱になる。
だけど、そんな薄暗い雨の中で何故だか彼女はキラキラして見えた。
触れた肩も組まれた腕も、なんだか先程より暑く感じた。


シトシトと雨が降る。
もうしばらく降ってても良いかも、なんて。


#梅雨

6/2/2024, 8:04:01 AM